10. UPSとは

UPSはUninterruptible Power Supplyの略で、日本語では無停電電源装置と呼ばれます。サーバにはUPSによる電源のバックアップは必須です。

日本は比較的電源事情は良好ですが、如何せん電線が地上に露出している地域がほとんどですから、雷や台風などの自然災害による停電は覚悟しなければいけません。

余談ですが、筆者が以前駐在していたシンガポールでは電線はすべて地中に埋設され、熱帯特有の雷雨の影響は全く心配ありませんでした。雷が鳴っても停電の心配をしなくても良いのは、日本人にとってはとても不思議な感覚です。しかし停電が全く無かったかというとそんなことはありません。約1〜2ヶ月に1回の割合で発生するいわゆる「瞬停」にずいぶん悩まされました。これは変電所や送電線にトラブルがあった時に送電経路が切替わる瞬間に起こるもので、電力会社の管理の問題に起因するものです。停止時間は0.1〜0.2秒程度で、普通のPCはほとんど影響を受けなかったものの、UPSをもたない工場設備はよく止まりました。

さて余談はこれくらいにして、まずUPSの種類について簡単に紹介しましょう。

普通我々がPCショップで目にすることができるのはバッテリ方式のUPSです。ただ一言で「バッテリ方式の・・・」といっても実は色々な種類があります。

PCショップに並んでいるUPSを見ると、同じメーカ,同じ容量のものでもモデルによって価格に差があることに気がつきます。次の表はUPSの国産代表メーカであるオムロン社の700VAクラスの3つのモデルを比較したものです。なお表のモデル名はメーカの該当製品の紹介ページにリンクしているので参考にしてください。

モデル名
(出力容量)
BX75XS2
(750VA)
BN75XS
(750VA)
BU70XS
(700VA)
給電方式 常時商用 ライン
インタラクティブ
常時インバータ
入力電圧範囲 AC90V〜110V AC86V〜119V AC79V〜121V
停電時切替時間 10mS以内 10mS以内 ゼロ
出力電圧精度
(ACオンライン時)
AC90V〜110V AC90V〜110V AC100V±3%
出力電圧精度
(バックアップ時)
AC100V±10% AC100V +7%/-10% AC100V±3%
出力電圧波形 矩形波 正弦波
(歪率25%以下)
正弦波
(歪率6%以下)
本体の大きさ/重量 7200cc/7.7kg 8900cc/15kg 12100cc/13kg
標準価格 49,800円 74,800円 98,000円

いずれもほぼ同じ出力容量なのに価格で最大約2倍の開きがあります。これは主にその給電方式による性能の差によるものです。中でも常時インバータ給電方式は、ACオンライン時・バックアップ時共に高品質の出力電圧を供給できる上、停電発生時も時間ゼロでバックアップに切り替わるなど、UPSとしてはまさに理想的なものです。それでは常時商用ライン・インタラクティブ常時インバータの各給電方式がどのようなものかを見てみましょう。


給電方式 ブロック図 説明
常時商用 常時商用方式ブロック図 【通常時】
入力と出力は直結された状態。

【停電時】
スイッチにより回路がバッテリ側に切替る。切替時間は5〜10mS程度。
ライン
インタラクティブ
ライン・インタラクティブ方式ブロック図 【通常時】
入力−出力間のオートトランスにより入力の電圧変動を吸収し出力を一定に保つ。

【停電時】
スイッチにより回路がバッテリ側に切替る。切替時間は5〜10mS程度。
常時
インバータ
常時インバータ方式ブロック図 【通常時】
入力はのAC/DC変換され再度DC/AC変換されて出力される。

【停電時】
バッテリの電圧がDC/AC変換されて出力される。切替時間はゼロ。

常時商用方式では、通常時はACコンセントからの給電と変わりません。ただ大抵のUPSは給電経路にラインフィルタをもち、サージやスパイクなどの急峻な電圧変化だけは緩和できるようになっています。停電時はバッテリバックアップ側に切り替わる為、5〜10mSの無給電時間が発生します。
またバックアップ時にのみ動作するDC/AC変換回路は簡易なものが採用されるため、出力波形は矩形波である場合が多いようです。

ライン・イタラクティブ方式は、通常の給電経路にオートトランスを設けることで、入力電圧の緩やかな変化に対して出力電圧を一定に保てるようにしたものです。停電時はバッテリバックアップ側に切り替わる為、5〜10mSの無給電時間が発生します。またバックアップ時にのみ動作するDC/AC変換回路は簡易なものが採用されるため、出力波形は矩形波か正弦波もどきである場合が多いです。この方式のUPSの重量は他の方式のものに比べ、オートトランスの分重くなります。

常時インバータ方式では入力AC電圧は一旦DC電圧に変換されてから再度AC電圧に変換されて出力されます。このため出力側の電圧や周波数は入力の変化に影響されない非常に安定したものとなります。このことから常時インバータ方式のUPSのことをCVCF (Constant Voltage, Constant Frequency)と呼ぶ場合があります。停電時は単にDC電圧をバッテリから供給するようにするだけですから、回路の切替えが発生せず、無給電時間ゼロでバックアップ状態になります。
出力側のDC/AC変換回路は常時動作させるものであることから、比較的精度の高い回路が採用されます。その結果、出力波形は歪の少ない正弦波であることが普通です。

11. UPSの選び方

常時インバータ方式のUPSが理想的なものであることがわかりましたが、高価でサイズもPC並みの大きさです。一方小型で安価な常時商用方式のUPSはバックアップ切替時に無給電時間があったり、出力波形が矩形波だったりと、サーバ用には少し「ヤバイ」気がします。

そこでSOHOサーバに適したUPS選びのポイントについて解説します。

11.1 どの方式を選ぶか

どの方式を選ぶかは、サーバを設置する場所の電源事情とサーバの電源ユニットの安定度によります。
設置する場所の電源の電圧変動が比較的大きい場合・・・例えば時々電灯がフッと暗くなったりするような場合はライン・インタラクティブ方式か、できれば常時インバータ方式のUPSを使います。工場などで工作機械などと同じ電源ラインを使ってサーバを稼動させる場合は常時インバータ方式の採用をお奨めします。

ライン・インタラクティブ方式のUPSの中には、オンライン時の出力電圧調整にバッテリの充放電の助けを借りるものがあります。入力電圧が不安定でこの調整が頻繁に起こる場合は、バッテリの寿命を極端に縮めることになりますから注意が必要です。

設置する場所の電源電圧変動が少ない場合で、サーバの電源ユニットの入力電圧範囲が広く、その出力容量がサーバの消費電力に対して余裕がある場合は、常時商用方式のUPSを使っても問題ありません。

サーバを自作する場合、電源ユニット(ATX電源など)は次の点に注意して選定してください。

  • 入力電圧範囲が100Vから規定されていること
    多くの機種は入力電圧範囲が115V〜240Vとなっており、電圧低下の影響を受ける可能性がある。
  • 出力容量は実際の消費電力に対して1.5倍以上であること
    容量に余裕が無い場合、瞬停や短時間の電圧低下の影響を受ける可能性がある。
    各パーツの消費電力を合算し、サーバの消費電力を推定してその値を1.5〜2倍した容量の電源ユニットを選ぶ。
    【例】Celeron 2.4GHz,,80GB HDD×2,CD-RWドライブ,GeForce3MX VGAの場合の概算

    部品 消費電力
    CPU 60W
    80GB HDD 15W
    80GB HDD 15W
    CD-RWドライブ 20W
    VGA 20W
    マザーボード,メモリ 40W
    FDD,FAN他 20W
    合計 190W

    この場合、190W × 1.5 = 285W ですから300W以上の電源ユニットの採用を検討します。
  • 各種安全基準をクリアした高品質な電源ユニットを選ぶ
    得体の知れない電源ユニットは安定度や信頼性に疑問があります。品質が保証されているものを選ぶことが重要です。

なお、安定化電源ユニットを持たない機器には常時商用方式のUPSは使うべきではありません。例えば電熱機器やACモータをもつ機器などです。ADSLモデムやルータなどは通常問題ありません。

11.2 UPSの出力容量の決め方

UPSの方式が決まったら次は出力容量を決めます。
これは単に接続する機器の総消費電力を1.2〜1.5倍した値を基準にします。

【例】サーバ200W ,FTTH回線終端装置5W,ブロードバンドルータ15Wを接続

   (200 + 5 + 15) ×1.2 = 276W

この場合は300W程度の出力容量をもつUPSを検討します。

なお、選定にあたっては出力容量の単位を間違えないようにしてください。皮相電力を表す「VA」と有効電力を表す「W」は別物です。UPSを接続する機器の最大消費電力の表記に従って適切なものを選択してください。

VAとWを換算する場合、商用電力でしたら、VA値×0.6 = W値 が目安となります。例えば500VAの場合は300Wとなります。

11.3 バッテリバックアップ時間の考え方

バッテリバックアップ時間はバッテリ容量に依存する仕様ですから出力容量の仕様とは無関係です。通常メーカのホームページに「消費電力に対するバックアップ時間の目安」としてデータが記載されています。

サーバでは、停電が起こってから最低でも5〜10分程度は稼動を続けられることが望まれます。停電発生からシャットダウンまでの間、サーバの管理者へのメールによる通知,ログインしているユーザへの通知,新規トランザクションの受付停止などの処理が必要になるからです。

5分のバックアップ運転を確保するとすれば、バッテリ劣化などを考慮すると、その2倍の10分がUPSの選定基準になります。

停電等のイベントをインターネット経由で通知する場合は、(当然ですが)サーバからインターネットに接続される経路にあるすべての機器・・・ルータ,回線終端装置,モデムなどの電源も合わせてバックアップする必要があります。

11.4 UPSのモニタリング

停電の発生やバックアップ運転への切替えなどのイベントがサーバに通知され、必要な処理が行われるようにする必要があります。このためにはサーバとUPSがシリアルケーブルなどで接続され、サーバ側でUPS状態をモニタするプロセスを常駐させる必要があります。

UPSの主要メーカは、通常Windows向けの監視プログラムを用意していますが、最近ではLinuxに対応したプログラムを公式に提供し始めています。また有志による専用ドライバの開発も行われています(apcupsdなど)。

Linuxサーバの電源をバックアップする場合は、使用するOSのバージョンに対応するドライバやプログラムが入手可能であることを確認しておく必要があります。また機種によってはオプションのケーブルを購入する必要があるので注意が必要です。

さて、最後に今回のまとめです。

  1. サーバにはUPSの設置が必須である。
  2. バッテリ方式のUPSには給電方式により「常時商用」「ライン・インタラクティブ」「常時インバータ」の3種類がある。
  3. 比較的電源事情が良く、サーバの電源ユニットの容量に余裕がある場合は、小型で安価な常時商用方式のUPSを採用することができる。
  4. バッテリバックアップ時間は10分以上のUPSを選ぶ。
  5. 停電やバックアップ運転切替わりなど、UPSが発するイベントをモニタし、適切な処理を行うドライバやプログラムを利用する。

以上でUPSのお話しは終わりです。 ご意見やご要望・ご質問は当社の掲示板でお願いします。
さて、次回はデータバックアップのお話です。ご期待ください。

(石)