6. 冷却を考えた部品の選び方

前回までは、CPUの発熱と性能について見てきました。SOHO向けサーバに必要な性能をもち、また特別な冷却を必要としないという低発熱性を兼ね備えたCPUは、Celeronの2GHzクラスであるというのが結論です。当社のCシリーズサーバはCeleron2.2GHzを採用していますが、ヒートパイプや水冷などの特別な冷却機構をもたずに35℃の環境での連続稼動に十分耐えます。

さて今回はCPU以外の部品について冷却の観点から、その選び方のポイントをまとめてみます。

6.1 CPUクーラー

CPUクーラーは凝りだすときりが無い部品のひとつですが、CPUとしてCeleron の2GHzクラスを選択する限り、冷却性能はCPUのリテールパッケージに付属する標準のもので十分です。以前も書いた通り、標準品は温度センサによる自動変速タイプで、特に高温にならない限り回転数は3000rpm以下と低く静音性も問題ありません。

ただし取り付けの際には注意が必要です。マザーボード上のリテンションキット(CPUクーラーを固定する部分)への装着にはかなりの力が必要です。あらかじめ固定するための仕組みを確認した上で、力を入れるポイントと方向を間違わないようにしましょう。

Celeron やPentium4に付属するCPUクーラーはCPUとの接触面が圧着性の熱伝導性樹脂でコーティングされており、CPUとの接着性や材料の安定性は良いと思います。しかし一度の装着にしか耐えませんから、装着をやり直すことが無いようにしてください。装着をやり直す場合は、樹脂の状態を観察し、剥げてしまっているようならプラスチックのへらなどできれいに削り取り、代わりに熱伝導性のグリスを塗ってCPUとの接着性を確保します。ただしグリスは化学変化やドライアップなど、長期使用に対する不安要素があるため、できるだけ高品質なものを選んで使ってください。

6.2 PCケースおよびケースファン

PCケースは内部スペースに余裕のあるものを選びます。できればミドルタワー型でメンテナンスのしやすいものを選ぶべきです。理由は拡張性もさることながら、十分な冷却性能を確保するためです。ケースファンをうまく配し、ケースの空間を利用してCPU,HDD,マザーボードなどの発熱部品に対して常に外からの空気が供給されるようにしなければなりません。小さなケースでは部品が密集し、空気の流れが妨げられてしまうために十分な冷却性能を確保することは困難になります。省スペース性を考慮すればケースは小さければ小さいほど良いのですが、サーバとしては冷却性能を優先させます。ただしサーバはディスプレイやキーボード,マウスなどの周辺機器を接続せずに運用することが可能であることから、最終的な設置面積はほぼケースのフットプリントのみとすることができます。この詳細については後で述べます。

ケースファンの配置は空気の流れを作るための重要なポイントです。吸気と排気のバランスをとると共に、発熱部品を通るような空気の流れを作るよう、うまく配置します。 サーバ内部の空気の流れ

右の図を見てください。これは当社のCシリーズサーバのケース内部の様子です。吸気ファンはケース前面の下段に1個(FAN1)、回転数 2400rpm の 8cm径の静音型です。排気ファンはケース背面上段に1個(FAN2)、回転数1700rpmの8cm径の静音型です。またケース背面の最上段にはATX電源があり、これには回転数1200rpmの12cm径の排気ファン(FAN3)がついています。これで空気の主な流れはケース前面下部から2台のHDDを通り、マザーボードを通過してCPUに至り、暖かくなった空気が2方向に排出される形となり、主な発熱部品を効率よく冷却できるわけです。排気系の能力が大きめなのは、ケース内部を陰圧気味にし、ケースの各面の通気孔などからも空気が入り込むようにしてケース内全域を冷却するためです。

他にケースとして考慮すべき点は材質とデザインですが、サーバを家庭のリビングや書斎などの比較的人目につく場所に置く場合は、家具と同様に部屋全体の調和を考慮することになります。材質はアルミの方が軽くて高級感もあるのですが、家庭で床置きにする場合は掃除機があたるくらいのことではビクともしない重さが求められるかもしれません。いずれにせよこれらは好みの問題です。

ちなみにアルミ製の方が冷却性能が高いと言われますが、当社で比較した限りではスチール製に対して顕著な優位性は認められませんでした。

なお、ファンの騒音レベルは口径によらず回転数に大きく依存します。ですから騒音を抑えて風量を確保するためには、大口径・低回転数のファンを選びます。また同じファン使っても、すぐ近くに空気の流れを妨げるような部品を配置すると、風切音が耳につくようになります。
徹底した対策を施すには、静音タイプの部品を用いることはもとより、実際にサーバを組んでみての試行錯誤が必要です。

6.3 その他の部品

次に来るのはハードディスクですね。一般的に高速なものは発熱量も大きく、騒音レベルも大きくなります。ただネットワーク経由で使用する場合は、CPUの性能と同様に無闇に高速なものにする必要はありません。データ転送レートがネットワーク律則となるのと、Webサーバなどの場合のコンテンツデータは、メモリ上のバッファキャッシュから参照されることが多いからです。ハードディスクの性能に関する話題は後の章に譲ります。

Seagate ST380011A筆者がお奨めするハードディスクはSeagate社のST380011A(右写真)という80GB/7200rpmのハードディスクです。プラッタ数1枚というシンプルな構成であることから、低発熱・低騒音であり更に性能も十分です。また信頼性にも定評があります。当社サーバでもこれを2台使ってRAID1を構成しています。

次に発熱が気になる部品としてビデオカードが挙げられます。サーバとしてこの性能を追求することは意味がありません。マザーボード上にVGA機能が集約されていればそれを使いましょう。そうでなければ2〜3世代前のビデオチップを使ったバリュー向けの低消費電力のビデオカードを選びます。間違っても大型の冷却ファンを持つようなビデオカードを選ぶべきではありません。

通常サーバとして稼動させる場合はX Window Systemは立ち上げる必要はありませんが、GUIベースのツールなどを使うことは否定できないので、インストールする予定のLinuxディストリビューション(Redhatなど)でサポートされているビデオチップを使ったビデオカードを選ぶべきです。当社のCシリーズサーバではNVIDIA社のGeForce3MXチップを使ったビデオカードを採用しています。
ただこれもネットワーク上にXサーバ環境(CigwinなどのPC上で動くXサーバアプリケーション)があれば全く気にする必要はありません。サーバとしてはVGAでテキストが表示できればOKです。

残る部品としてLANカード,光学ドライブ,フロッピディスクドライブ,メモリモジュールそしてマザーボードなどがありますが、ケース内の空気の流れを適切に確保できていれば、いずれも特別な配慮は要りません。

なお電源ユニットは重要な排気部品のひとつですから、排気能力が高い割りに騒音を出さない大型ファンをもつものが望まれます。また故障が多い部品のひとつでもあることから、多少高価でも信頼性の高いものを選びましょう。

6.4 サーバの熱設計

サーバの熱設計は性能を求めれば求めるほど難しいものになりますが、この連載のようにSOHO向けサーバと割り切ってしまえば比較的簡単です。CPUの温度60℃を上限として、おおよそ次のように考えることができます。

  1. 外気温に対してケース内の温度上昇は約8℃。安全をみて10℃とする。
  2. CPUクーラーの冷却能力、すなわち熱抵抗は0.5℃/Wと置く。
  3. CPUの消費電力はメーカ公称TDP値の0.7掛け。ただしこれはマルティメディア用途でないサーバ用の場合。
  4. 同じコアを採用したPentium4とCeleronのメーカ公称TDP値が同一で、Celeronを使用する場合は、TDP値の0.8掛け。

以上を前提に、Celeron2.2GHz (TDP=57.1W) の最大上昇温度を求めると次のようになります。

最大上昇温度= 57.1 × 0.7 × 0.8 × 0.5 = 16 [℃]

これにケース内上昇温度10℃を加えると26℃となり、CPU温度の上限とした60℃まで34℃の余裕があります。つまり外気温34℃までは大丈夫であるといえます。

PART2で行った実験では、カーネルコンパイル中のケース内最大温度上昇が7℃,それに対するCPU温度上昇が9℃ですから、上記の見積もりの各々10℃,16℃という値にはまだかなりの余裕があると言えます。しかしながら、埃などによる吸排気口のつまりによる吸排気能力の低下や、設置場所が熱がこもりやすい等の悪条件を考慮すれば、妥当であるといえます。

なお、この計算はこれまでに述べた冷却のポイントをおさえている場合にのみ適用できることをお断りしておきます。

では今回の結論です。

  1. Celeron2GHzクラスでは、CPUクーラーはリテールパッケージに付属する標準品で十分である。
  2. ケースは余裕のある大きさを。また吸排気ファンを適切に設置し、発熱部品を通る空気の流れを作ること。
  3. ハードディスク,ビデオカード等の部品は性能よりも低発熱,高信頼を優先に考える
  4. これらを考慮した上でCeleron2.2GHzを使った組んだサーバは、約35℃の環境温度での連続運転に使用することができる。

いかがでしたでしょうか? 今回で熱の問題は終わります。
次回はハードディスクの信頼性と性能のお話です。RAIDとは? ハードウェアRAIDとソフトウェアRAIDはどちらが良いのか? などです。ご期待ください。

(石)